An endless voyage.魚鳥と化して踊る。(8)

本日の最高気温は11・4度だったらしいのでありますが、ウェザーニュースの投稿欄を見ると「暖かい一日でした」なんて書いてありまして、のんきな人もいたものであります。その温度は日中の最高気温ですが、10度を超えたのは4時間ばかりでありまして、朝は氷点下だったわけで、要するに客観的にはちっとも暖かいと呼ぶような気温ではないのであります。極寒の冬に慣れてしまって、暖かいなんて言っているのであります。こういう人には昔ながら画像のこたつだけの暖房を与えてやりますと、ストーブを焚こうものなら「暑いです」とうっとりするかもしれないのであります。気が付けば2月になっておりまして、電車に乗ればマスクをした人、席をする人、鼻汁を出している人までいまして、さらには発熱中で赤い顔の人までいて、風邪とインフルエンザに見舞われて日本列島はとんでもない状態に陥っているのであります。

ギボウシ(擬宝珠)の紫色の芽を発見。

この植物というのは、緑の鮮やかな葉っぱがこんもりと茂りまして、やがて茎がぐんと伸びまして、ヒョロヒョロの茎の先に白い華麗な花が咲くのであります。一年を通して紫色の要素が全くないのでありますが、地面から出るときだけ紫色をしているのはどうしたわけなんでありましょうか。緑色の補色は紫色でありますから、何らかの関係はあるのかもしれませんが、どうにもよくわからないのであります。植物は地中で次なる季節の準備を怠りなくしているようなのでありまして、枯れ果てること、散ること、きれいさっぱり地上に無くなることが、お終いを意味しないのであります。寒暖の差の激しい気候に合わせて、植物は茂ったり枯れたりというサイクルを繰り返して命をつないでいるのでありまして、人間も冬の間冬眠したりすればよかったのにと思ったりするのであります。そう言えば熊なんかの冬眠を調べていた人の研究成果を、どこかの新書で読んだことがありましたが、どうも普通に人が想像するような状態ではないようでありました。年がら年中同じタイムスケジュールで活動することを強いられておりますけれども、もうちょっと柔軟に生きられるようにはならないものなのでしょうか。

  さて、『校本智恵子抄』(角川文庫)を読んでおりますが、補遺編の5作目「淫心」という詩であります。

初版の『智恵子抄』から漏れた作品でありますけれども、漏れた理由がよくわかります。詩が書かれたのは、大正3年(1914)8月27日らしいのでありますが、もうまるっきり100年前の詩なんでありますが、それにしては分かり過ぎるくらい分かりやすい詩であります。夏目漱石が『こころ』の連載を終えた頃でありまして、心理小説であるところの『こころ』と、恋愛を謳い上げている「淫心」は、今読んでも理解できるわけでありまして、世の中が進歩していないとも言えますが、夏目漱石も高村光太郎も世の中の100年くらい前を生きておりまして、すでに近代社会で日本人がぶつかる壁を察知していたとも言えるのでありましょう。「淫心」という詩は、引用するのもはばかられるような男画像女の性交渉の様子を詩にしたものでありまして、若い人が読んだらチンプンカンプンですが、普通の大人が読んだらこれは非常に恥ずかしい詩なのであります。光太郎さんは東京生まれの江戸っ子でありますけれども、洋行帰りの男盛り、智恵子さんは田舎から東京に出て女子大を出て、平塚らいてうの『青踏』の表紙を書いていたような女性でありますが、二人とも奔放な関係に陥って同棲に走った時の様子が描かれております。

スノーフレーク(鈴蘭水仙)の芽。

その「淫心」という詩の中に、「夏の夜の/むんむんと蒸しあがる/瑠璃黒漆の大気に/魚鳥と化して踊る/つくるなし」と言う一節があります。時は八月でありますから、冷房の普及していない大正3年の夏は、おそらく逃れ難い蒸し暑さでありましょう。照明は不十分でありますから、夜は漆黒の闇夜でありますが、その蒸し暑さの中で光太郎と智恵子はキリも限りもなく求め合ったのでありまして、獣のごとくと言わずに「魚鳥」としたところが光太郎さんの詩心であります。「つくるなし」は「尽くるなし」でありまして、エンドレスということなのであります。要するに二人は、第一次世界大戦が始まった1914年の夏に戦争が風雲急を告げる西欧とはまったく遠い日本の地で、愛を語り合って倦まなかったというわけであります。この年末に二人は披露宴を挙げておりまして、まったく好き勝手、自由を謳歌して止まなかったのであります。愛の河を毎夜毎夜船で渡っていたわけで、その船には舵もなく櫂もない、どこへ行き着くのか分からないのでありますが、おそらく二人は後年の悲劇をみじんも予感していなかったのでありましょう。

   近代化に成功し、日清・日露戦争に勝利した日本は、その果実を大正時代に味わったのであります。

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