My house seems to be a vacuum tube. 茶粥を煮る。(8)

ソメイヨシノというのは、晴れているときには確かにきれいな花でありますけれども、曇天の下では全く冴えないような気がいたします。花弁自体の色が薄いせいなのか、私の目が悪いせいなのか、さらにはカメラの調整を全くしないで適当に写しているせいなのか、ともかく晴れていない時は、そして直射日光を浴びている状態でないときれいに写らないような気がします。それに比べると桃色の桃の花はきれいに映りまして、平安朝の貴族たちがその桃の花に着目しなかったのにはそれ相当の理由があるのだろうと思うのでありまして、桃の花の名歌は平安時代には少ないような気がいたします。って言うか、今『歌枕歌ことば辞典』(増訂版)というものを見たら出ていないの画像で驚きました。いちいち驚かないで知ったかぶりをするべきところなんでありますけれども、やっぱり桃を和歌に読むことがなかったとすれば、これは驚きであります。桃は中国から来たものだそうで、その中国の漢詩では桃を好んで素材にするわけで、それを意識して和歌に読み込むのを避けたんでありましょうか。耳にしたことがあるようで、理由はちゃんと聞いたことがないような、何とも宙ぶらりんな気持ちになります。

今年も咲いた散歩道の桃の花。

そう言えば、去年は春先に三好達治さんの桃を読んだ詩を見つけまして、これを考えているうちに、萩原朔太郎とその一家が三好達治さんと深い関係にあることが分かりまして、さらに三好達治さんの伝記が芥川賞の候補になったこと、その選考には三島由紀夫も関わったことなんかが分かりまして、とんでもない近代文学の迷路に入り込んだのでした。また、「桃源郷」という言葉がありますけれども、世間では桃の花が咲いているのが桃源郷だと考えておりますが、あれはもとになった漢詩を読んだらすぐわかりますが、桃源郷自体には別に桃の花が必須なわけではないのであります。世の中というものは、いろんなことを誤解したり、ずらしたり、ずれたり、ねじ曲げたりしているわけで、教養なんてものは身に付ければ身に着けるほど人から笑われることになるってものなのであります。たぶん。和歌の桃の歌で有名なのは、『万葉集』の大伴家持の歌でありまして、それがあるために王朝では盛んに詠まれたのだろうと考えると、これがまったく当て外れなわけであります。とりあえず大伴家持の歌がどこにあるかというと、巻の第19の巻頭でありまして、『新編国歌大観』歌番号は4163番(ただし、旧『国歌大観』だと4139番ってことになります)、それをその時代の表記で示すとどうなるかというと、「春苑紅尓保布桃花下照道尓出立●嬬」でありまして、●のところは女偏に「感」の字なんですがそういう漢字は一般には使わないようであります。

   ハルノソノ クレナヰニホフ モモノハナ シタデルミチニ イデタテレイモ(西本願寺本の訓)
   はるのその くれなゐにほふ もものはな したでるみちに いでたつをとめ(新訓)


最後の女偏の二文字をどう読むかで対立しておりまして、むかしは「いも」、現在は「をとめ」とするようですが、たぶんちゃんとした証拠に基づいて判断が付いたわけではなくて、邪推すると何となく妥協と迎合で決着が付いたものかもしれません。西本願寺本の「イデタテレイモ」は、『古今六帖』という平安時代の和歌集では微妙に違っておりまして「いでたてるいも」になっております。「いも」は「妹」でありまして、愛妻のことも「いも」と言うのであります。女偏の最初の字は普通の漢和辞典にありませんので困りますが、もう一つのほうは実は意外にポピュラーな漢字で、ひょっとすると子供だって読み方を知っているんであります。本当です。「嬬」の読み方は辞書によれば「つま」でありまして、ほらほら、軽井沢から草津温泉に行こうとすると通るところにこの字を使う地名があるのでありまして、要するにそれは「嬬恋村」でありまして、「つまごいむら」と言うではありませんか。だとすれば、近代に出てきた新訓の「をとめ」というのはインチキな訓でありまして、「いも」という読みが推奨されてしかるべきところであります。女偏に「感」のほうも、類推するなら「つま」という訓に相当する漢字の可能性がありまして、大きな漢和辞典で確認する必要がありそうです。いやはや、そのうち調べます。ただ、「出立」というところを、こうなると5音で読む必要がありまして、それが「イデタテレ」とか「いでたてる」という何とも微妙な表現の原因になっているはずであります。余計なことを言うと、「下照」の部分だって、習うときにはそんなものかと覚えましたし、根拠もあるにはあるようですけれども、正直言うとかなり怪しい感じがしまして、この歌というのは習った時に思ったほど安心して読める歌ではないものであります。

   いえいえ、長い伝統と精密な研究に異を立てる気持ちなんて、私には微塵もございません(笑)。

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