Spare the rod and spoil the child.子には鞭。(9)

「かわいい子には旅をさせよ」という諺(ことわざ)を考えているんですが、この諺は現代では通用しないという結論に達しました。江戸時代の末、信濃の国柏原の百姓の子である小林一茶は、継母との折り合いが悪く、実の父親によって江戸の奉公に出されてしまいましたけれども、かなりの辛酸をなめて俳諧師となり、父の終焉に際して実家に舞い戻るというような人生でありましたが、しかしながら、そのことが明治時代になってから評価されまして、文学史に名を残したわけでありますから、この場合、実家を十代で追い出されるという過酷な経験が、見事な俳諧・俳文とな画像って結晶し、「かわいい子には旅をさせよ」という諺通りであります。旅と言うのは艱難辛苦をしゃれて表現したわけで、決して贅沢三昧とか感動体験などというものではないということなのでしょう。さて、旅と言えば、江戸時代の俳諧師の代表者であるところの松尾芭蕉の『奥の細道』を思い浮かべるんでありますが、その冒頭辺りにある俳句で気になるものがあります。

とりあへず 手向け山の芽 きにかかる(粗忽)

妙な俳句をこしらえたのは自分でありますが、「きにかかる」は「気に掛かる」と「木に掛かる」の掛詞でありまして、ご覧いただくと分かりますが、なんとなく鳥やら昆虫やらがうじゃうじゃいるような雰囲気があるのであります。あっという間に茂りますから、世間もこの新芽のタムケヤマを話題にするのは難しいことでありましょう。さて、タムケヤマも気に掛かるんですが、『奥の細道』の次のくだりの俳句に、気になるところがあるのであります。何を見ても、たぶん誰も指摘をしていないのでありますが、本当に誰も指摘をしていないのかどうかは本当は分かりませんけれども、指摘があるなら、有名な注釈書などが少しは触れるはずですから、どうも誰も気に掛けていなかったのかもしれないのであります。

   千じゆと云処にて舟をあがれば前途三千里のおもひ
   胸にふさがりて幻のちまたに離別の涙をそゝぐ
 
   行春や鳥啼魚の目は泪


有名すぎるほど有名でありまして、今さら何か言う必要なんてないわけでありますけれども、ここに出て来る句を現代のごく普通の仮名遣いとか送り仮名とか、漢字に改めてみると、

   行く春や 鳥鳴き 魚の 目は涙

でありましょう。平仮名書きにすれば、「ゆくはるや とりなき うおの めはなみだ」でありまして、例えば「や」は切れ字であるとか、季語は「行く春」であるとか、「鳥鳴き」と「魚の目は涙」は対句に近いとか説明するような気がします。それでもって、これは旅の辛苦を思って悲壮な決意を表明したとか、典拠として陶淵明やら杜甫の漢詩が影響しているとまで言いまして、要するに非常に格調の高いものであると持ち上げるだけ持ち上げるのであります。日本中で中学生や高校生にそういうことが叩き込まれまして、松尾芭蕉は「俳聖」であるということの例証としてこれを押し出しまして、鑑賞せよ、感想文を書け、芭蕉の心情を汲み取れ、というふうに教育がなされているはずであります。私も、記憶は薄れまして、自信はないのですが、そういうふうに聞き覚えたり、習ったり、資料集やら文庫本によって理解を深めたものであります。しかし、であります。いつの頃から気になったのか、本当は10日前くらいに思い付いたような気がしますが、この句と言うのは、掛詞があって、いかにも俳諧らしい滑稽味があるんじゃないかと思うのでありますけれども、どうなんでしょう。そう言えば、誰だって思い付くと思うんでありますけれども、「魚の目」って例のあの皮膚が角質化してできるイボみたいなものではないかと思うのです。特に足の裏にできた時は痛いのでありまして、これからの長旅で一番困るのは「魚の目」ができることで、それを先取りして心配しているんじゃないでしょうか。それと、その掛詞があるとするなら、「鳥鳴き」のところだって、夜明けを告げる「鶏鳴」のことでありまして、旅をすれば早起きをして次の宿場へ少しでも近づきたいわけでありまして、鶏鳴を寝床で聞いているわけには行かないはずなのであります。以上から、この『奥の細道』の第二番目の句と言うのは、思いっきり意訳するなら、こんなことでございましょう。

   さあ陸奥に出発だ。春の終わりに江戸を去り、困難な旅に行こうぞ。
   鶏鳴に先立って旅程を稼ぎ、足にできた魚の目につらい涙を流すこと
   だろう。先々の苦労が思いやられる。

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