まだまだ聞きたい 和久井映見名曲選(5)

歌手としての和久井映見さんを発見してから、半年がたちましたが、シングル全26曲にアルバム11枚を聞いていて、まったく聞き飽きないというのはちょっと不思議でありますけれども、そうやってヘビーローテーションで聞いて来た歌手が少しはありますのでいまは和久井映見さんの歌声がマイブームということなのであります。NHKの朝の連続ドラマというのは、よっぽど時間が合わないと見ないのでありますが、例の「ひよっこ」の時に、和久井映見さんが出て来た時にようやくドラマらしくなったという印象を持ちました。この半年、気を付けて探ってみると、NHKの単発ドラマに出ていたり、昨年暮れの連続ドラマにヒロインとして出ていたりしているのであります。先日は草刈正雄さん主演の『体操しようよ』を見に行きましたが、お目当てはヒロイン役の和久井映見さんでありました。歌手だと知ってから注目するという点では、薬師丸ひろ子さんの場合も同じでありまして、世間とはあべこべかもしれないのであります。

① 神様がいない土曜日
   作詞・作曲:CANCAMEI  編曲:門倉聡
  ※第一番目のアルバム『FRORA(フローラ)』の6曲目
  ♪おかえり わたしの恋 つらかったでしょう

CANCAMEIというのは、作詞家の康珍化さんと作曲家の亀井登志夫さんのコンビであるというのは、歌謡曲に詳しい方のサイトで知りましたが、個人のお名前がわかってもピンと来るものがありません。レコード大賞というようなものが盛んだった時代には、当然作詞家・作曲家がお茶の間でももてはやされましたが、そういう催しが廃れたその後は活躍されていてもなかなか関係者以外には通じないことでしょう。ともかく、二人のコンビが和久井映見さんで試したあれこれは、非常に面白いと思います。先日、村上龍さんの小説『ラッフルズホテル』を読みましたが、ちょっと壊れかけた女優さんと戦場カメラマンの恋愛と破局が描かれていて、それが1989年9月13日発行であります。そうした状況を背景に置くとこの歌はすっきりとわかるような気がいたします。若い自意識過剰な女性が不倫から目が覚めてさめざめ泣いている、というような設定であります。入っているアルバムの中では地味でありますけれども、スローバラードが上手な和久井映見さんという視点から見ると、最初からうまいということがわかる一曲。8点

② Count Down Moon
   作詞:戸沢暢美 作曲:NOBODY 編曲:門倉聡
  ※第二番目のアルバム『LUNARE(ルナーレ)』の7曲目
  ♪あなたの悲しみを願いつづけてた

作曲者の欄を見て匿名なのかと思ったわけでありますから、こちらが門外漢であることはすぐに分かるかと思います。NOBODYというのはロックバンドの名前でありまして、相沢行夫さんと木原敏雄さんのコンビだとWikipediaにありまして、さらに提供曲の欄にこの歌が掲載されておりました。同じアルバムの二曲目に、シングル発売された『アキラが可哀想』が入っておりますが、それと同工異曲でありまして、他の女性に首ったけの男をみながらはらはらしているという、切ない心情の歌です。ノリノリの速いテンポの歌でありまして、それを卒なく歯切れよく歌っております。タイトルを考えると、首ったけの彼がふられてふと隣を見たらこの子がいたと気づくわけで、もう恋の成就は迫ってきているということであります。こういう軽い歌が悪くないというところに、この歌い手さんの良さがあるわけで、アルバムを聴くのが楽しみなのであります。7点

③ 拒めると思った
   作詞:戸沢暢美 作曲:亀井登志夫 編曲:門倉聡
  ※第三番目のアルバム『なぜ愛してるふりをするの』の6曲目
  ♪視線の温度を 熱くして見つめた そのとき 汽笛が鳴った

名曲選(2)で一度扱ったんですが、再び取り上げてしまいました。前回は、歌詞カードと実際の歌唱がずれているということで取り上げましたが、今回はどうしてこの歌が三番目のアルバムに入っているのかという点で気になったわけであります。雨の横須賀を舞台にしているんですが、思い浮かぶのは山口百恵さんの『横須賀ストーリー』でありまして、たぶん自然な連想だと思います。あちらは、別れ話の後の光景ですが、こちらは不倫めいた関係を仕掛けられたというか、こちらから仕掛けて誘惑したというようなドラマであります。ちょっと深みにはまりそうで車を降りた、というような微妙な歌詞でありまして、なかなかどうして鮮やかなシーンであります。アルバムの中で具体的な地名が出てくるのはこの歌だけでありまして、だったら『雨のヨコスカ』でも、『夜更けのヨコスカ』でもいいんだろうと思います。他の歌もうまいので気付きませんが、歌手活動を通じてもっともブラックな、あるいはダークな印象の歌でありまして、低音なのに実はとてもある意味爽やかに歌っているのであります。それにしても、この歌をどんな衣装でどんな表情で歌うことをプロデュースした人たちは考えていたのか、ふと考えてしまうのであります。8点

④ 未来からの手紙
   作詞:平沢類 作曲:小倉博和 編曲:菅原弘明
  ※第五番目のアルバム『だれかがあなたにキスしてる』の9曲目
  ♪迎えに行かない あなたを見たら何も終わらない

非常に不安な歌でありまして、イントロから違和感がジワリと来るんであります。何度聞いても歌詞が頭に入らないので、おかしいなあと思って歌詞カードを眺めてみたらこれはもう男の頭には到底受け入れられない女心が綴ってありまして、あきれたのであります。歌詞カードのブックレットを改めて眺めてみると、まるでこの歌のために撮影されたようなポートレート群でありまして、頬杖ついていたり、愛想なくこちらを正視していたり、閉じた瞼や微妙な指先、そしてそっけない横顔であります。悔しいことに、どれもこれもかなり綺麗な容姿であります。どうやら、成田空港で二年前に見送った彼がようやく帰国するんでありますが、とてもじゃないが腕を広げて「おかえり」とは言えないような状況がこちら側にできてしまっている、という話であります。ただ、彼の方だって、腕にぶら下がってまとわりつくスレンダーな小娘を引きずってゲートに出てこないとは限らないのでありますけれども。そこはお互い様。最後の最後にコーラスで彼女の本音が出てきますけれども、それはもう後の祭り。そこで悲鳴のような高い声が歌い手によって発せられるわけで、それを聞くためだけに4分近く聞き続けてみるのはいいと思います。7点

⑤ いつか信じさせてね
   作詞:戸沢暢美 作曲:若林かほ 編曲:門倉聡
  ※第六番目のアルバム『PEARLY(パーリー)』の5曲目
  ♪違うひとと歩く街で あなたばかりさがしていた 
   こんな場面見せつけたい

ビートの効いた軽快なメロディーに乗せて、本命の彼に対する甘えた気持ちが告白されるのでありますが、なにかそのままステップを踏んで踊り出しそうな曲であります。バックにダンサーを控えて入り乱れたら楽しそうでありまして、これが25年前の歌だとはちょっと思われないところがあります。あの当時はやった歌にも、踊って歌う歌はたくさんありましたから、その流行の中で作られたのは分かるのでありますが、低い落ち着いた声のボーカルというのは少なかったわけです。どうしても、ハイトーンの声や、激しく叫ぶ歌が人気を博してしまうのは、流行歌の主な聞き手が若者だから仕方ないのでありますが、今この歌を聞いたら、こういう歌を日々の暮らしの中で楽しみたいと思うような良さがありまして、当時の世相や、自分の置かれた環境が変化したことを実感いたします。しかし、25年というのは、すごい時の流れであります。25年前は、バブル崩壊して急激に世相が暗くなる時期であります。まもなくWindowsが世界を席巻するとは夢にも思わなかったころでありまして、今考えると日本は世界一おめでたい国でありました。それにしても、ドラマの主役を重ねていたあの美人女優が、さらりとこんな素敵な曲を密かに歌っていたなんて、周囲に話してもにわかには信じてもらえないことでしょう。9点

⑥ 特別はなくていいの
   作詞:和久井映見 作曲 小牟田聡 編曲:門倉聡 
  ※第八番目のアルバム『愛しさのある場所』の8曲目
  ♪輝く星は、夜空の天使が恋人たちにくれたプレゼント

ギターの音色を軸にしてイントロが始まりまして、軽快なリズムで進んで行く、いかにも和久井映見さんらしいあったかソングであります。クリスマスソングでありまして、この歌は世間に普及させてみたいなあと思うような曲です。ステディな関係の恋人とクリスマス・イヴの晩に一緒に過ごせる感謝の気持ちを表した曲でありまして、次のイヴもこんなふうにすごせたらいいなあという、平凡を絵にかいたような幸福を彼に訴えている歌詞なのであります。おそらく、次々とドラマの主役を務め、あんまり目立たないように見えて、90年代の主だった男性俳優の相手役として抜擢されていた女優さんが、こんなふうな地に足の着いた歌詞を創作し、それをアルバムの中にさりげなく歌い込むわけですから、実はちょっと恐ろしい才能なのであります。つまり、女優としてあんなに売れなくても、作詞家としてやって行けたのかもしれず、作曲の才能も実はあるんじゃないのか、と思ったりするんですが、そのあたりは確かめようもないところに時の流れが来てしまっているのであります。『体操しようよ』という映画を見ましたが、定年退職した主人公の男性が惚れてしまうような、ちょっと魅力的な中年の女性を演じ切れてしまいまして、そこにこの歌を挿入歌として入れても違和感がないのであります。20代の時の作詞と40代の演技している姿に違和感がないということは、老成していた20代だったのでありますし、若々しい40代でもあるということかもしれません。9点

⑦ 海辺の休日
   作詞:西脇唯 作曲・編曲:宮内和之
  ※第十番目のアルバム『Dearest(デアレスト)』の6曲目
  ♪わがままをまちがえて あなたを苦しめてないかと

スマートフォンのAIアシスタントにシリ(Siri)という存在がありまして、私はまったく使わないのでありますが、家族がたまに「和久井映見の曲を掛けて」と頼んだりしますと、シングル曲の合間にこの曲を必ず入れるのであります。何を判断材料にしてシリが曲を選択するのか考えてみるんですが、どこかにこの「海辺の休日」の支持者がいて、毎日聞くものだから、その累積で登場するのかもしれません。シリの選ぶ曲は時々異なりますけれども、これとデビューシングルの「マイ・ロンリー・グッバイ・クラブ」と「抱きしめたいのはあなただけ」は定番でありまして、非常に不思議であります。聞かされているうちに、ぐんぐん好きになるような曲であります。おそらく、和久井映見さんの曲の中ではもっともスローテンポでありまして、それをやさしくしかししっかりと歌いますので、たしかに気分のいい曲であります。麻丘めぐみさんのアルバムに『海を見ていたら』という名曲があるんですが、それに匹敵する名曲かもしれません。寄せ来る波のリズムで、作曲者が曲をこしらえたので、たぶん無理がなくて癒されるのでありましょう。作曲・編曲者はギタリストだったそうで、惜しくも10年以前に亡くなっているそうですが、Wikipediaにはこの曲もちゃんと記されていました。イントロが繊細であります。10点

今回は以上ですが、これで8割くらいの歌はコメントしたのかもしれません。アイドルの歌というのは、びっくりするような妙な歌があるものなのでありますが、この歌い手のアルバムにはそうした曲が見付からず、きちんと作り込まれた歌ばかりであります。ヘビーローテーションで聞いていると、だんだん評価が変化したりするんですが、それはそれ、もともと客観性のある評価ではありませんから、誰も気にしたりしないことでしょう。和久井映見さんのアルバムにはクリスマスを歌った歌が何曲もありまして、なるほど90年代はクリスマス・イブが恋人たちの山場だったと気が付きました。70年代の歌謡曲は夏休みの恋が山場でありまして、時代によって変遷があるのかもと感じました。それにしても、和久井映見さんは安定感がありまして、たぶんいまでも歌えるはずなのであります。

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