Only I know all.ついに漱石『こころ』を読み通す(5)

この二三日で急に新聞に取り上げられたのが、空き家になった家屋がものすごく多いという記事でありまして、じゃあ詳細に記事を読む気がするかというと、そんな気も起らないのであります。読まなくても記事の内容は明らかでありまして、何をいまさらそんなに新聞が驚いて見せるのか、そちらの方がいつものことと言え、気に掛かったりするのであります。国民が共産党支持に回らないように、資産を持たせようとして持ち家を奨励しまして、そのための税の優遇策だって用意していたわけでありますから、みんながこぞって一国一城の主を目指す気分で、田んぼや畑を潰して隣と3尺無いような距離で家を建てたのであります。塀もない庭もない、あるのはフローリングの画像床と仏壇の入る茶の間でありまして、それも全部ローンでありました。子供は狭い家を嫌って遠方に住み、そのうち夫婦の一人が倒れまして、仏様となるまではこの家も役に立つのですが、残る一人が倒れた時、この家も価値を全く失うのであります。こうして8軒に一軒、あるいは7軒に一軒が空き家だそうでありまして、貸すに貸せない、売るに売れない、ひどいことになっているのは近所を見たって分かることであります。

軒端のサルスベリの開花状況。

儲ければいい、経済的に成功すればいい、という社会では、浪費が美徳でありますから、借金してでも家は建てればいいということになります。その結果、必要ない家々が建ちまして、無理して建てたツケが30年と言わず、20年といわず、わずか10年で回ってくるわけで、気が付いたら空き家であります。だいたい子供に勉強部屋を提供しようとしまして、第一子が10歳、夫婦が30代後半で家を建てると、10年で夫婦だけになり、20年で独居老人が発生し、30年で孤独死が待ち受けるのであります。退職金で二世帯住宅をもくろみますが、子供には同居してもらえず、水回りが二つある巨大住宅は宝の持ち腐れ、お迎えが来るのは5年10年でありまして、こりゃあもう悲劇を通り越して喜劇でありましょう。当初から貸家を目指せば管理が行き届きますが、病気になり、掃除も行き届かなくなれば、高温多湿の日本列島ではカビがはびこり、もはやだれも入居したがらない廃屋なのです。分かっていたくせに、今日もまた近所で新築の槌音がするのは、本当に解せないのであります。

  さて、漱石作『こころ』の下巻・「先生と遺書」第48節・第49節であります。

第48節で友人「K」の遺体を発見しまして、次の第49節で夜明けを待って下宿の奥さんに友人が自殺したことを伝えるのであります。ここで、結構リアルなのは、残された遺書に都合の悪い暴露がないかどうか点検していることでありまして、先生はもう自分が死に追いやったも同然という認識があるのであります。卑怯でありまして、姑息なのであります。血しぶきもあるという有様でありまして、まあ何とも壮絶なんでありますが、骸の頭が重たいというような描写もありまして、漱石さんは経験があるようなことなのです。すごいなあ、と思いまして、それから自分の画像胸に自殺した人が周囲にいただろうか、などと考えましたら、……なるほど、人は都合よくまずいことは忘れるものでありまして、ザクザクとは言わないまでもあの人とこの人はあんな死に方こんな死に方、遺体に触ったことだってあったのでありまして、長く生きていると何でも経験しているというような有様であります。我ながら驚いたのなんの。

サルスベリがようやく華やかになりました。

なるほど、先生の内面の葛藤と言いますか、お嬢さんを巡る三角関係というのはもちろん先生にとっては重要でありましょうけれど、たとえばこれを下宿の奥さんの立場にしたら、婿にと見込んだ相手が貧窮に喘ぐ友人を連れて来て、いろいろと世話を焼いたものの、やっぱり世話をしきれなかったというだけのことです。養家を怒らせて孤立無援になった友人でありますから、策略が露見した結果、それまでの援助がなくなりまして、花の都での暮らしは非常に生活が窮乏してしまったのでありました。そういう意味では、養家をだまして資金援助を受け続けようとした時点で、すでに精神的にこの友人はしっかり病んでいたのかもしれないのであります。そういう人が、先生の助力によって下宿屋に引き取られ、家族同然の暖かさに触れてリハビリが軌道に乗りかけたんですが、そういう鬱病の人が、病気の回復途中で過去にとらわれ、現在にもがき、未来に絶望してしまうことはよくあることのはずであります。だから、恋をしては見たものの、当てのない恋慕ですから、先生に出し抜かれたのは当然のことでありまして、己の非力と己の要領の悪さを実感しても、そのことが死を選ぶ最大の理由までは行かないような気がいたします。医者になることを自分勝手に拒み、養家をだまそうと企んだ段階で、彼の死は必然だったのかもしれないのであります。それに巻き込まれた先生の不幸というものが、ここに来て際立つような気がいたします。

   友人「K」の遺書というものも、実はこの小説内にあったわけなのであります。

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