まだまだ聞きたい 和久井映見名曲選(6)

さて、和久井映見さんのアルバム曲をあれこれ取り上げて紹介しているわけでありますが、気が付くと残っている曲は10曲足らずでありまして、それを最後までやるかやらないか、というところまで来たのであります。そう言えば、世の中は受験シーズンでありまして、昨年はいくつもの大学で不正が暴かれて大変でありましたが、不正があるのが世の中で、それでも時は流れて行ってしまうのであります。すべて忘却の彼方に消え去るわけで、不正の結果入っていた人も、入れなかった人も、もう時の流れは押し戻せないのであります。ただ、世の中が公正に運営されていないということは胸に刻んで過去を振り返る必要は痛感するわけです。ここでは、アルバムの中の私にとっての残り物を眺めるんですが、ありゃ、耳が慣れたのか残りものに福がありまして、摩訶不思議、この歌い手さんは「スカ」がないということであります。歌い手としての平均偏差値が異様に高いという結果に、ある意味愕然とするわけです。

① ヨコハマ・ステップ
   作詞;康珍化 作曲;羽場仁志 編曲;門倉聡
   ※第1番目のアルバム『FLORA(フローラ)』の5曲目
   ♪君は苦しそう きつく体よじって

聞き慣れてみると、割と自然に和久井映見さんがそのまま歌っている歌でありまして、もしかしたらデビューのずっと前に収録したのかもしれないのであります。じゃあ、下手なのか?と言うと実はそうではなくて、最初から随分しっかり歌っているのであります。ひょっとするとデビュー曲の候補だったかもしれないのでありまして、デビュー曲の「マイ・ロンリー・グッバイ・クラブ」が別れた後の未練の曲なのに対して、こちらは男女の出会いの様子であります。歌詞のテーマが、「カサノバ・サーカス」と同じでありまして、ちょっと尖がった若者の踊りを介しての出逢いというようなものであります。横浜出身の和久井映見さんが尖がっていたのかどうか分かりませんが、バブル絶頂期の可愛い女の子としては踊れたらモテモテですから、その方向を模索した歌であります。女優の蒼井優さんはおとなしそうですが、実はシャープに踊れるのであります。若い日の和久井映見さんも、ひょっとすると踊れたのかも。8点

② 空においでよ
   作詞;森本抄夜子 作曲;羽田一郎 編曲;門倉聡
   ※第1番目のアルバム『FLORA(フローラ)』の9曲目
   ♪空においでよ 何も恐れてないで
       愛においでよ いつも祈るように見つめてるよ

「愛においでよ」の部分が、たぶん「逢いにおいでよ」との掛詞になっているんですけれども、はっきり言ってよく分からないのであります。歌詞全体の主体が女子なのか男子なのかもよく分からないところがありまして、主体が今いる「空」が一体どこなのか、それも不明であります。「空」は恋愛の比喩かとも思うんですが、ハングライダーとかヘリコプターかもしれません。ひょっとすると、アニメか何かの主題歌で、そのアニメがわかると歌詞の意味がすっきりするような気がいたします。まったくの、アイドル歌謡でありまして、元気よく歯切れよく歌っているのであります。途中ちょっとささやくように歌うところが後年の和久井映見さんの声とわかるんですが、そこを伏せたら「誰?」でありましょう。しかし歌い方は上手で、80年代前半なら新人賞に食い込めそうなところが不思議であります。シングルにしたら案外ヒットしたのかと思わせます。大ヒットしたのにたぶん誰も覚えていない、斉藤由貴さんの「青空のかけら」を彷彿とする歌であります。7点

③ スピンして、ガールフレンド 
   作詞・作曲;CANCAMAY 編曲;門倉聡
   ※第2番目のアルバム『LUNARE(ルナーレ)』の6曲目
   ♪スピンしていて ガールフレンド どんな時にも

男女交際の歌だと思い込んで聞いていましたので、何度聞いても内容が頭に入らなかったのであります。歌詞を見たら、女の子が卒業後集まって、クーペに乗ってドライブしているという状況でありまして、学校時代の仲良しのその後を車の中で互いに聞いているという話なのであります。車のコントロールが効かないのに引っ掛けて、男と恋仲になるという歌だと、題名を見て早合点していたわけで、そうではなくて、女友達にもっともっと自由に生きていいよと応援しているのであります。だからなのか、和久井映見さんの発声が自然で明るくて、飛び跳ねるように歌っているわけでありまして、恋愛模様を描く他の歌とは別なのであります。これも、斉藤由貴さんのアルバム『PANT(パント)』の中にある「振袖にピースサイン」という歌のノリでありまして、制作サイドは80年代に活躍した斉藤由貴さんに和久井映見さんをなぞらえていたのかもしれないと、ちょっと想像しました。楽しそうなんで、むしろ、こんな歌の方がシングルとしてはよかったかも。7点

④ シャワーでも、コロンでも
   作詞;康珍化 作曲;小倉博和 編曲;門倉聡
   ※第2番目のアルバム『LUNARE(ルナーレ)』の10曲目
   ♪シャワーでも コロンでも あなたの匂い 消せない夜明け

たぶん、ポップスの歌謡曲の中だと「バラード」と呼ぶジャンルに入れるべき歌であります。バラードで思い浮かぶのは、松田聖子さんの「スウィート・メモリーズ(SWEET MEMORIES)」でありまして、あれはサントリーの缶ビールの宣伝のための歌でありますが、最初は歌手のクレジットを控えていたという話がありました。誰だ誰だとなって、えええ、聖子ちゃんなの?というようなことで世間は盛り上がったはずであります。余計なことを言うと、1982年に郷ひろみさんが出してヒットした「哀愁のカサブランカ」のアンサーソングだと思うのでありますが、だから「スウィート・メモリーズ」は1983年のリリースであります。アイドル歌手の歌とは思えないような曲調という点では、この「シャワーでも、コロンでも」も負けていないわけで、いや、より危ない恋の歌でありますから、これを若干20歳くらいで歌った歌い手もすごいのでありますが、作って歌わせた方の慧眼もすごいのであります。アルバムのエンディングとしては上等。9点

⑤ 似合わないふたり
   作詞;戸沢暢美 作曲;玉置浩二 編曲;菅原弘明
   ※第5番目のアルバム『だれかがあなたにキスしてる』の5曲目
   ♪いちばん遠くの タイプにひかれて 運命が動くのね

5番目のアルバムというのは、10曲収録しておりますが、その1番目と10番目に和久井映見さん作詞の歌が入ってまして、この流れは薬師丸ひろ子さんや斉藤由貴さんでおなじみの、歌い手が次第に制作に深く関わってゆくというものなのであります。ユーミンこと荒井由実さん、後の松任谷由実さんなどから始まった、シンガーソングライターを重く見るというトレンドがあるわけで、歌えるということは作れるということでもあるわけで、歌い手の感性に従ってアルバムを構成してゆくのでありましょう。このアルバムは、男女の90年代初頭の恋愛模様をさまざま提供しているのであります。そうすると、ミスマッチなふたりの関係を悩むというこの歌の情景も納得でありまして、少数派だけれど、こういう人たちはいたはずであります。はたして、結婚まで行き着くのかどうか、そしてすぐに離婚の危機は訪れないのか、気になって歌が耳に入りません。いや、耳に入ったから気になるんですけれども。7点

⑥ 空飛ぶシーツの日
   作詞;戸沢暢美 作曲:大門一也 編曲;鳥山雄司
   ※第5番目のアルバム『だれかがあなたにキスしてる』の6曲目
   ♪あなたを きつく しばりたくなるわ はじめて ずっといた日

ボサノバ風のまったりしたリズムの歌でありまして、それを艶っぽく歌っておりまして、ひとつ前の「似合わないふたり」とは歌い方が違っているのであります。テンポがスローなほど本領発揮でありまして、和久井映見さんの歌唱はアイドル歌謡の域を最初から逸脱しております。女優さんの歌うおしゃれな鼻歌でありまして、これがなかなかいいのであります。シーツというアイテムからしていろいろ生々しいわけですが、それよりも成るようになって落ち着いたという感じのほのぼのとした幸福感がにじんでおりまして、なるほどアルバム曲としてはいい感じであります。歌人の俵万智さんに『サラダ記念日』という歌集がありましたが、まああれと同じような着想であります。俵万智さんの師匠筋の話として、もう10代で評判でありましたが、周囲は彼女が社会人になってからデビューさせようと画策したようであります。和久井映見さんに関しても、少し育成期間があったような気がするんですが、さて、音楽のレッスンはどれくらいしたのでありましょう。8点

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